消費税の端数処理は切り捨てか四捨五入か ― 請求書1枚につき1回

執筆者:

カテゴリ:

請求書の消費税に1円未満の端数が出たとき、切り捨てか四捨五入かで迷うことがあると思います。結論を先に書いておくと、どの方法を選ぶかは事業者の自由です。決まっているのは端数処理の回数のほうで、そこを外すと適格請求書の要件を満たさなくなります。

結論 ― 方法は自由、回数は決まっている

先に要点だけ書きます。

論点決まり
切り捨て・切り上げ・四捨五入どれを選んでもよい(事業者が任意に決める)
端数処理の回数1枚の請求書につき、税率ごとに1回
品目ごとに端数処理して合計する認められない

迷いやすいのは1行目のほうですが、実務で差し戻しの原因になるのは3行目です。表計算ソフトで請求書を作っていると、意図せず品目ごとの処理になっている場合があります。

「税率ごとに1回」とはどういうことか

10%対象の品目が3つある請求書で見てみます。

正しいやり方

まず税率ごとに税抜の合計を出し、その合計に対して1回だけ端数処理をします。

品目税抜金額
A1,050円
B2,345円
C3,678円
10%対象 合計7,073円
消費税(7,073×10%=707.3)707円(切り捨て)

認められないやり方

品目ごとに消費税を計算して端数を落とし、それを足し上げる形です。

品目消費税(品目ごとに切り捨て)
A(1,050×10%=105.0)105円
B(2,345×10%=234.5)234円
C(3,678×10%=367.8)367円
合計706円

金額の差は1円です。問題は差額の大きさではなく、要件を満たしていないことのほうです。品目数が増えるほど差は開き、20品目あれば十数円ずれることもあります。

なお8%と10%が混ざる請求書では、端数処理は合計2回になります。税率ごとに1回ずつです。混在する場合の書き方は8%と10%が混在する請求書の書き方にまとめています。

なぜ品目ごとの処理は認められないのか

適格請求書に書くことが求められているのは「税率ごとに区分した消費税額等」です。品目ごとの消費税額の寄せ集めは、これに当たりません。この点は適格請求書に必ず書く6項目の5番目にあたります。

制度の側から見ると、品目ごとの端数処理を認めると、品目の分け方しだいで消費税額が変わってしまうという問題があります。同じ取引でも、1行にまとめるか3行に分けるかで納める税額が動くのは具合が悪い、ということです。

税込で表示している請求書の場合

単価を税込で管理している会社もあります。その場合は、税率ごとの税込合計から割り戻して消費税額を出します。10%なら税込合計に10/110を、8%なら8/108を掛けます。

手順計算
10%対象の税込合計7,780円
消費税(7,780×10/110=707.27…)707円(切り捨て)
税抜金額(7,780−707)7,073円

こちらも端数処理は税率ごとに1回だけです。品目ごとに割り戻して端数を落とし、それを足す形は同じく認められません。税抜で計算する場合と考え方は変わりません。

切り捨て・四捨五入・切り上げ、どれを選ぶか

どれでも構いません。実務では切り捨てが多いと感じます。理由は単純で、請求される側にとって不利にならないためです。取引先から「なぜ1円多いのか」と問い合わせが来ることがなくなります。

選ぶうえで大事なのは、方法そのものより社内で1つに固定することです。

  • 担当者ごとに違う方法を使っていると、取引先から見たとき金額の出方が揃わない
  • 月によって変わると、入金の突き合わせで1円の差を追うことになる
  • ひな形が複数あると、どのファイルから作ったかで結果が変わる

取引先から「うちは四捨五入で計算している」と言われることもあります。合わせる義務はありませんが、継続的な取引で毎回1円ずれるのが煩わしければ、相手に揃えるのも実務上の判断としてあり得ます。決めたら変えないことのほうが重要です。

請求書に書く税額と、申告で使う税額は別の話

調べていると「割戻し計算」「積上げ計算」という言葉が出てきて混乱しますが、これは確定申告で売上の消費税額を計算するときの方法の話です。請求書1枚の書き方とは論点が分かれます。

場面論点
請求書を1枚作るとき税率ごとに1回だけ端数処理する(この記事の内容)
1年分をまとめて申告するとき売上税額を割戻し計算で出すか、積上げ計算で出すか

関係するのは、申告で積上げ計算を選ぶ場合です。積上げ計算は、発行した適格請求書に書いた消費税額を足し上げて売上税額とする方法なので、請求書ごとの端数処理がそのまま申告額に効いてきます。処理方法を年の途中で変えたり、担当者ごとにばらついたりしていると、後から突き合わせるのが難しくなります。

どちらの方法を選ぶかは、仕入側の計算方法との組み合わせに条件があります。自社がどちらを採用しているかは、顧問税理士に確認してください。請求書の作り方としては、いずれにせよ「税率ごとに1回、決めた方法で」を守っておけば問題ありません。

エクセルで、なぜここを間違えるのか

表計算ソフトで請求書を作っていると、次の3つの形で品目ごとの端数処理が紛れ込みます。

1 品目の行に消費税の列を作ってしまう

見やすさのために「品目・数量・単価・金額・消費税」と並べると、行ごとに端数処理が発生します。合計欄でその列を足すと、認められない計算そのものになります。品目の行に消費税の列を置かないのが確実です。

2 表示だけを丸めて、実際の値は小数のまま

セルの表示形式で小数点以下を隠すと、画面では整数に見えても、内部では小数が残ります。その状態で合計すると、画面上の数字を足した額と合計欄が1円合わないことが起きます。丸めるなら表示形式ではなく、計算式のほうで行います。

3 行を追加したときに、合計の範囲がずれる

品目を1行足したのに合計式の範囲が元のままだと、その行が計算から漏れます。端数処理以前の問題ですが、前月のファイルを複製して使う運用では最も起きやすい事故です。この点はエクセルの請求書作成に時間がかかる理由でも触れています。

「1円合いません」と言われたとき

正しく作っていても、取引先から「そちらの請求書と、こちらの計上額が1円違う」と連絡が来ることがあります。多くは相手側が品目ごとに消費税を計算しているために起きます。

このとき、こちらが金額を書き換える必要はありません。適格請求書として正しいのは税率ごとに1回処理した金額のほうです。説明としては、次の3点を伝えると話が早いです。

  • 税率ごとの合計に対して1回だけ端数処理していること
  • 端数処理の方法(切り捨て・四捨五入など)はどれを選んでもよいこと
  • 品目ごとに処理して合計する方法は、適格請求書では認められていないこと

それでも先方の会計処理の都合で揃えたいと言われた場合は、端数処理の方法(切り捨て/四捨五入)を相手に合わせることで解決する場合があります。処理の回数は変えられませんが、方法は自由だからです。

決めておくこと

この記事の内容を実務に落とすと、決めることは3つだけです。

決めること具体的に
端数処理の方法切り捨て・四捨五入・切り上げから1つ。社内で統一し、変えない
処理する場所税率ごとの合計欄で1回だけ。品目の行では処理しない
丸め方表示形式ではなく計算式で丸める。画面と中身をずらさない

いま使っているひな形が該当していないかは、品目の行に消費税の列があるかどうかを見れば大半が判定できます。あれば、その列を消して合計欄で計算する形に直します。

判断に迷う場合

ここで書いたのは、一般的な取り扱いの整理です。値引きや返品が絡む場合、複数の請求書をまとめて1枚にする場合など、個別の事情によって扱いが変わることがあります。

制度の詳細や最新の取り扱いは、国税庁が公開している「インボイス制度に関するQ&A」で確認できます。自社の状況にどう当てはまるかの判断は、顧問税理士にご相談ください。


関連する記事として、適格請求書に必ず書く6項目8%と10%が混在する請求書の書き方も用意しています。なおちくし請求書では、税率ごとに税抜額を合算してから1回だけ切り捨てる形で消費税を計算しています。