振込手数料はどちらが負担するのか ― 請求書への書き方と会計処理

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請求書の振込手数料を、どちらが負担するのか。法律上の原則は支払う側の負担ですが、実際には売り手が負担している取引も少なくありません。この記事では、その原則の根拠と、請求書への書き方、差し引かれて入金されたときの会計処理までを順に整理します。

原則は支払う側の負担

根拠は民法485条です。「弁済の費用は、別段の意思表示がないときは、債務者の負担とする」と定められています。代金を支払う義務があるのは買い手なので、支払いにかかる費用である振込手数料も買い手の負担、という整理です。

大事なのは「別段の意思表示がないときは」という部分です。当事者間で別の取り決めをすれば、そちらが優先されます。つまり売り手負担にすること自体は、合意があれば何の問題もありません。

同条にはただし書きもあり、債権者が住所の移転などによって弁済の費用を増加させた場合、その増加分は債権者の負担とされています。振込先の金融機関を変えたことで相手の手数料が上がった、といった場面が該当します。

それでも売り手負担の慣行がある

原則がこうであっても、実務では次のような形で売り手が負担していることがあります。

  • 取引開始時に「手数料は御社負担でお願いします」と言われ、そのまま続いている
  • 契約書にも請求書にも書いておらず、いつのまにか差し引かれて入金されている
  • 業界の慣行として、発注側負担が当たり前になっている

1件あたり数百円ですが、月20件なら年間で数万円になります。金額そのものより、毎回入金額が請求額と合わないことのほうが実務の負担です。消込のたびに差額の理由を確認することになります。

なお、合意がないのに発注側が一方的に手数料を差し引く場合、代金の減額として問題になることがあります。委託取引のルールは2026年1月に見直され、法律の名称も「下請法」から「中小受託取引適正化法(取適法)」に変わりました。対象になるかどうかを含め、継続的な取引で困っている場合は公正取引委員会の相談窓口や弁護士にご相談ください。支払期日の上限については請求書の発行日と支払期限の決め方でも触れています。

金額にすると、年間でいくらか

1件あたりの手数料を300円と仮定して、発行通数ごとに並べます。実際の手数料は金融機関や振込金額、同一行かどうかで変わるので、あくまで規模感の目安です。

月の発行通数年間の負担額(1件300円で試算)
10通36,000円
20通72,000円
50通180,000円

1件ずつ見ていると小さく感じますが、年単位では無視できない額です。とはいえ取引先に負担の変更を申し入れるかどうかは、関係性を含めた経営判断になります。この記事では、どちらに決めるにせよ「決めて、書いておく」ことを勧めます。

請求書にどう書くか

書いていない請求書がいちばん揉めます。どちらの負担であっても、1行書いておくのが確実です。

状況記載例
買い手負担にしてもらう(原則どおり)恐れ入りますが、振込手数料は貴社にてご負担くださいますようお願いいたします。
売り手負担で合意している振込手数料は当社が負担いたします。手数料を差し引いた金額をお振り込みください。
金額まで確定させたい振込手数料は貴社ご負担にてお願いいたします。お振込金額は上記の合計額となります。

置く場所は振込先口座のすぐ下が読まれやすいです。備考欄の最後に紛れ込ませると、実際に振り込む担当者の目に入りません。振込作業をする人は口座番号のあたりしか見ていない、という前提で置き場所を決めます。

3つ目の書き方は、売り手負担か買い手負担かで振り込む金額そのものが変わることを明示する形です。「合計額をそのまま振り込んでください」と書いてあれば、相手の経理も迷いません。

契約書と請求書、どちらに書くべきか

効力の点では契約書が優先します。取引基本契約書や注文書に負担の定めがあれば、請求書に違うことを書いても、そちらが通るわけではありません。

書く場所役割
契約書・取引基本契約取り決めそのもの。ここで決まる
請求書毎回の念押し。担当者が代わっても伝わる

すでに何年も続いている取引で、いまさら契約書を作り直すのが難しい場合もあります。その場合でも、請求書に毎回書いておくと、相手の担当者が代わったときに揉めにくくなります。実務ではここが効きます。

新規の取引先であれば、条件を決める段階で支払期日と一緒に確認しておくのが確実です。後から変えるより、最初に決めるほうがはるかに楽です。

差し引かれて入金されたときの処理

売り手負担で合意している場合、入金額は請求額より手数料のぶん少なくなります。この差額の処理には2つの考え方があります。

処理考え方
売上値引きとする売上そのものを手数料相当額だけ減らす。消費税も連動して減る
支払手数料とする売上は満額のまま、手数料を自社の費用として計上する

どちらを選ぶかで消費税の扱いが変わります。自社がどちらで処理しているかは、顧問税理士に確認してください。途中で変えると、過去分との整合が取れなくなります。

引かれた額が、実際の手数料と違うとき

売り手負担で合意していても、引かれる額が毎回同じとは限りません。相手がどの金融機関から振り込むか、金額がいくらかで手数料が変わるためです。逆に、実際にかかった手数料より多い額が引かれていることに、後から気づく場合もあります。

合意しているのは通常「実際にかかった手数料の負担」なので、実費を超える差引きはその範囲を超えます。まずはいくら引かれたかを請求書ごとに記録するところから始めます。記録が数か月分たまると、相手に確認するときの材料になります。

返還インボイスは、ほとんどの場合いりません

売上値引きとして処理する場合、本来は適格返還請求書(返還インボイス)の交付が必要になります。ただし税込1万円未満の対価の返還等については、交付義務が免除されています。振込手数料相当額が1万円を超えることはまずないため、実務上は交付不要と考えて差し支えありません。

インボイス制度が始まったとき「手数料のたびに返還インボイスを出すのか」と心配された方もいると思いますが、その必要はありません。適格請求書そのものの記載事項は適格請求書に必ず書く6項目にまとめています。

入金消込で困らないための工夫

手数料が差し引かれると、請求額と入金額が一致しません。ここで消込に時間がかかります。

  • 差額が手数料なのか、値引きなのか、入金ミスなのかが分からない
  • 金融機関によって手数料が違うため、差額が毎回同じ額にならない
  • 複数の請求をまとめて振り込まれると、どれに対する差額か追えない

対策は、取引先ごとに「手数料はどちら負担か」を一覧で持っておくことです。差額が出たとき、その取引先が手数料を引く相手だと分かっていれば、確認そのものが不要になります。

あわせて、請求書番号を振込依頼人名に入れてもらうよう依頼しておくと、まとめ振込のときに対応が取れます。番号の付け方は請求書番号の付け方で扱っています。

決めておくこと

決めること具体的に
負担者取引先ごとに、買い手負担か売り手負担かを決めて記録する
書く場所請求書の振込先口座のすぐ下に1行。契約書があればそちらにも
差額の処理売上値引きか支払手数料か、どちらかに統一する(税理士に確認)

この3つが決まっていれば、毎月の入金確認で手が止まることはなくなります。いちばん避けたいのは、どこにも書いていない状態です。

判断に迷う場合

ここで書いたのは一般的な整理です。契約内容や取引の形態によって扱いが変わることがあります。会計処理と消費税の判断は顧問税理士に、取引条件そのものの見直しが必要な場合は、公正取引委員会の相談窓口や弁護士にご相談ください。


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